札幌手外科・骨研究所
射場浩介(いば こうすけ)
常勤医師
松井裕帝(まつい ひろただ)
非常勤医師
当院では手、肘の専門診療を行っています。「手」や「肘」は上肢の機能を発揮するためのとても重要な役割をもっています。食事をする、身だしなみを整える、字を書くなどの日常生活での基本動作から、料理やパソコン操作などの細かい作業(巧緻(こうち)運動)、スポーツ競技や楽器演奏など、いずれも手や肘の正常な機能が必要となります。
けがやけがの後に問題となった障害、使いすぎや時間経過とともに発生した障害を認める手や肘に対しては、詳しい知識と専門の手技をもつ手外科医が治療にあたることが望ましいと考えます。当院では日本手外科学会専門医の資格をもつ医師が治療にあたります。
正常の手や肘は、複雑な構造をとり、骨、関節、靭帯、筋肉、腱、神経などがお互いに関連して細かな動きができるようになっています。一方、これらの大切な組織が1つでも正常に働かないと、手や肘に特有の障害を認めることになります。また、手や肘は複雑な仕組みで動くため、多くの種類のけがや病気を認めます。その中でも代表的なものを紹介します。
ばね指
原因・病態
指は腱が動くことで曲げ伸ばしができます。指を曲げる役割をもつ腱を屈筋腱といいます。この屈筋腱を指の骨に固定する役割をもつ構造を腱鞘(けんしょう)といいます。いろいろな原因で腱鞘が厚くなり、屈筋腱との間で通過障害やそれに伴う痛みを生じた状態を腱鞘炎と呼びます。この状態が進行すると指を伸ばすときに引っかかりやばね現象が生じます。この状態をばね指といいます。1 本の指には複数の腱鞘がありますが、大部分は指の付け根の腱鞘炎が問題となります。手のひらの腫れた腱鞘を押すと痛みが生じます。
治 療
まずは、湿布や消炎鎮痛剤(飲み薬)を使用しますが、効果がない場合には厚くなった腱鞘へのステロイド注射や、腱鞘を切開する手術を行います。

(津下健哉.腱鞘炎.私の手の外科一手術アトラスー改訂第2版、津下健哉(著)南江堂、東京、p398-399、1988 より引用)
ドケルバン病狭窄性腱鞘炎
(きょうさくせいけんしょうえん)
原因・病態
母指を伸ばす動きをする腱(伸筋腱)や広げる動きをする腱(外転筋腱)は、手首の母指(おやゆび)側を通ります。また、これらの腱は手首の骨(橈骨、とうこつ)の母指側にある支帯(したい)のトンネル内をとおります。「ばね指」と同様にこの支帯が厚くなり、母指の腱との間で通過障害と痛みを生じた状態をドケルバン病といいます。
治 療
治療は、母指の運動制限や、シップや消炎鎮痛剤(飲み薬)を使用します。効果がない場合には腱鞘へのステロイド注射や、厚くなった支帯を切開する手術を行います。

(渡辺健太郎、中村蓼吾手関節部.整形外科手術のための解剖学、長野昭(編)メジカルビュー社、東京、p237、2002 より引用)
手根管症候群
(しゅこんかんしょうこうぐん)
原因・病態
母指(おやゆび)から環指(くすりゆび)までの手のひら側の感覚は、正中神経(せいちゅうしんけい)が支配しています。正中神経は手首の手のひら側にある靭帯と骨でできた手根管(しゅこんかん)というトンネルの中をとおります。この手根管で中を通る正中神経が圧迫される病気を手根管症候群といいます。母指から環指にかけてのしびれや痛みが主な症状で、夜間から朝方にかけて症状が強くなることがあります。病気が進行すると指の感覚がなくなり、親指の付け根の筋肉がやせてきます。そのため、ものをつまむことや、細かい作業をすることが不自由となります。原因の多くは不明ですが、手首の骨折後や使いすぎ後に生じることや、妊娠中や閉経後の女性、糖尿病や透析を行っている患者さんに多いことがわかっています。
治 療
治療は湿布や消炎鎮痛剤(飲み薬)を使用しますが、効果がない場合は手首を安静にするための固定などを検討します。また、症状が強い場合や病気が進行した場合には、神経を圧迫している厚くなった靭帯を切開する手術を行います。

(渡辺健太郎、中村蓼吾手関節部.整形外科手術のための解剖学、長野昭(編) メジカルビュー社、東京、p219-221、2002 より引用)
肘部管症候群
(ちゅうぶかんしょうこうぐん)
原因・病態
小指(こゆび)と環指(くすりゆび)や手の小指側の感覚は、尺骨神経(しゃっこつしんけい)が支配しています。尺骨神経は肘の内側にある靭帯と骨でできた肘部管(ちゅうぶかん)というトンネルの中をとおります。この肘部管内で中を通る尺骨神経が圧迫される病気を肘部管症候群といいます。小指と環指から手の小指側にかけてのしびれや痛みが主な症状で、肘を曲げることで症状が強くなります。病気が進行すると指の感覚がなくなり、指の間の手の筋肉がやせてきます。さらに悪化すると小指と環指は曲がってきます。この変形をかぎ爪(つめ)指変形といいます。肘部管をつくる靭帯が厚くなり、尺骨神経を長期間に圧迫することで発症します。原因として加齢に伴う変形、肘骨折後の変形、スポーツによる肘への過度の負担、肘内側での尺骨神経の過度の動きなどがありますが、原因不明のことも多くあります。
治 療
治療は湿布や消炎鎮痛剤(飲み薬)の使用や、肘の運動制限を行います。効果がない場合や症状が強い場合、病気が進行している場合には、肘内側で神経を圧迫している厚くなった靭帯を切開する手術や神経を移動する手術を行います。

(伊藤恵康:肘関節部.整形外科手術のための解剖学、長野昭(編)メジカルビュー社、東京、p147、2002より引用)
へバーデン結節
原因・病態
指の第1関節(DIP 関節)の腫れ、痛み、変形を生じる病気です。原因は不明ですが、指の第1関節に生じる変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)です。痛みや変形のため指を動かすことが困難となります。まれに粘液のう腫(ミュカシスト)と呼ばれるゼリー状の内容物が入ったふくろができることがあります。レントゲン写真では第1関節のすき間が狭くなり、骨棘(とげ状の突出)や骨の硬化を認めます。また、場合によっては関節が壊れることやずれることがあります。関節リウマチとは異なります(関節リウマチでは第1 関節に問題は生じません)
治 療
治療は湿布や消炎鎮痛剤(飲み薬)の使用や、テーピングや装具により第1 関節を固定して動きを制限します。これらの治療に効果がなく、痛みや変形が強い場合や関節の不安定性が強い場合には関節を固定する手術(関節固定術)を検討します。

レントゲン検査
母指CM 関節症母指手根中手関節
(ぼししゅこんちゅうしゅかんせつしょう)
原因・病態
母指の付け根の関節(CM 関節)の腫れ、痛み、変形を生じる病気です。母指のCM 関節に生じる変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)です。痛みや変形のため母指を動かすことや力を入れることが困難となり、母指の付け根が外側に突出して変形は外観からもわかるようになります。病気が進行するとCM 関節はかたくなり、母指を開く動きが困難となります。レントゲン写真では母指付け根のCM 関節のすき間が狭くなり、骨棘(とげ状の突出)や骨の硬化を認めます。また、CM 関節は外側にずれてきます。原因として、長期間での使いすぎや加齢による変化が考えられます。また、脱臼や骨折などのけがの後に生じることがあります。レントゲン検査では多くの方にこの病気を認めますが、腫れや痛みなどの症状を認める患者さんはその中の一部です。
治 療
治療は湿布や消炎鎮痛剤(飲み薬)を使用します。効果のない場合は母指CM 関節の安静を目的とした専用の装具を使用します。これらの治療で効果がなく、痛みや母指の動きの制限が強い場合には、CM 関節を固定する手術(関節固定術)や関節の切除と靭帯を再建する手術(関節形成術)を検討します。

レントゲン検査
テニス肘上腕骨外側上顆炎
(じょうわんこつがいそくじょうかえん)
原因・病態
手首を伸ばす働きをもつ筋肉(橈側手根伸筋、とうそくしゅこんしんきん)や指を伸ばす筋肉(指伸筋、ゆびしんきん)は肘外側にある上腕骨外側の突出した部分(上腕骨外側上顆、じょうわんこつがいそくじょうか)が起始部(きしぶ)となっています。そのため、手首や指の曲げ伸ばしを繰り返し使う作業や、強く握る動きを続ける作業やスポーツではこれらの筋肉に負担がかかり、肘の外側から前腕にかけて痛みが生じます。このような病気をテニス肘(上腕骨外側上顆炎)といいます。多くの場合は安静時に症状はなく、ものを強く握ることや物をつかんで上に持ち上げるときに痛みが出現します。
治 療
治療は湿布や消炎鎮痛剤(飲み薬)を使用します。また、手首や指のストレッチや、前腕部をしめる専用の装具(テニス肘バンド)を使用します。効果のない場合には肘の外側にステロイド注射を行います。これらの治療でも効果がなく、痛みによる障害が長期間続く場合には、病気の部位を切除する手術を検討することがあります。

MRI検査
肘外側の損傷部位
TFCC 損傷三角線維軟骨複合体損傷
(さんかくせんいなんこつふくごうたいそんしょう)
原因・病態
手首の小指側の関節の中に靭帯と軟骨でできた三角線維軟骨複合体(TFCC)という組織があります。手首の動きの補助や手首への負荷による衝撃を和らげる働きをもっています。このTFCCが損傷されると、手首の曲げ伸ばしやねじる動作、強く握る動作で手首の小指側に痛みが出現します。多くの場合、安静時に痛みはありません。
治 療
治療は湿布や消炎鎮痛剤(飲み薬)を使用します。また、症状や障害の程度に応じて、手首をギプスや装具で固定し、その後はリハビリテーションを行います。手首にステロイド注射を行うことがあります。これらの治療でも効果がなく、痛みによる障害が長期間続く場合には、関節鏡を用いた手術や骨を短くする手術(骨切り術)を検討することがあります。

MRI検査